優等生と劣等生

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耳の傍で風のうねりが聞こえる。 同時に響いてくるのは凛とした、詠唱の為のリズムを伴った声だ。 「風起こすは風神。其を使うは我、解き断ちぬ、見えざる刃……」 (レベル三の呪か。甘いね) 向かい二十メートル離れた場所に立ち、詠唱を行う彼女を見て、彼は唇を吊り上げた。 間もなく術は完成する。そして、彼に襲い掛かるだろう。対呪文防御の為の装備は着けているが、直撃すれば軽い怪我では済まない。 しかし、彼自身は動かない。いや、まだ動くべきではないことを知っているのだ。 「双牙風刃!」 轟(ごう)という風音を伴い、その名の通り、二つの風の刃が出現する。 (この位か) 内の力を緻密に調節する。相手の呪より弱過ぎず、かつ強過ぎぬように。 右腕をゆっくりと前に突き出し、彼は絶妙のタイミングで手を開いた。 「……炎」 呟けば、それに呼応して引き出される、力。 相手がレベル三の呪なら、此方も同等水準の術を繰り出せば良いのだ。勿論術の相性はあるが、系統が違っても、威力がほとんど変わらなければ、双方の呪文は相殺される。 この加減が難しい。 彼の言葉で、炎の球が出現する。ただ燃え盛る火の玉と言うよりも、高エネルギー体と表現するのが相応しいだろうそれは、向かいの彼女が出した刃に真っ向から激突し、完全に消滅する。 ……筈だった。 というのも、彼女の刃は消え去ったのだが、彼が出した火は完璧に無くなっておらず、ピンポン玉程度の大きさで、そのまま彼女の方へと飛んで行ったのだ。 掌サイズと言えど、威力は推して知るべし。 彼女は咄嗟に腕で顔を庇った。 そして、対呪防御のジャケットが自動的に発動させた簡易結界は、彼女への直接的なダメージを阻み、それの爆発をも誘発させた。 しかし、ピンポン玉は、前記した通りエネルギー体であるので、彼女から約一メートル程の近距離で小爆発が起こるとなると、爆風などの力学的な要素が発生するのは必至であり。 故に、彼女は勢い良く後ろに吹っ飛ぶ。 上手く受け身をとれたのは、偏に訓練の賜物と言えよう。 「悪ィ、大丈夫か?」 内心では、「力加減誤った……」と冷や汗をかいていることをおくびにも出さず、彼は彼女へと声をかけた。
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