かぐや姫の憂鬱

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  「うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!」  男の叫び声が、辺り一帯に木霊する。地面に尻餅をついてわなわなと震える様は、なんだかおかしくて仕方ない。良い歳したオッサンが何情けない声出してんだか……。  そんな事を思いつつ、少女は目の前の男を見据えた。  前でふんわりと内側に巻いた栗色の髪が、彼女の動きに合わせて揺れる。どこか幼さの残る顔立ちの少女だ。  腰に手を当て、少女はにっこりと笑いかけた。それを目にした全員が“天使の微笑み”と称する、彼女特有の極上の微笑み。  その微笑みに、男は僅かに安堵した。  少女が着ているのは、裾は短いが前を重ねて腰の辺りを黒い帯で結ぶ、赤色の和装。漢字を使う国でよく見られる服だ。  漢字を使う国の人々は、礼儀正しく心優しい。世界中で耳にする話である。  加えてこの美しい微笑み。女神のようだとさえ、誰もが思うだろう。こんな美少女ならさほど酷い事はしないはず──男は意識せず、僅かに笑みをこぼしてた。  が、その安堵感も長くは続かなかない。次にこの少女から発せられた言葉に、男は我が耳を疑った。 「有り金置いていきな」  少女から発せられた声は、地を這うように低く、どすが効いていた。美しい微笑みはとうに消え、鋭い視線が男を射抜く。  
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