146人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ…本当に入るのかよ?」
夏。うだるような暑さと、蝉の声が浜辺を満たしている。
「なんだよ、ここまで来といて今更怖くなったのか?」
「別にそうじゃないけど…。」
暗い鉄の廊下、数人の子供の声と足音だけが響いている。外の世界とは隔絶され、中は静かだが熱気が籠もって息苦しい。
「やっぱりいるのかな?海賊船お化け…。」
「いないよ、そんなの!」
「いるってば!」
「だからこれから確かめに行くんだろ!」
ここはとある港町。この町の港のすぐ隣には砂浜があり、そこには一隻の輸送艦が座礁したまま放置されていた。立ち入り禁止にはなっているが時々子供が忍び込んで遊び場にしている。
そして、この船には、ある噂話があった。それは、『夜になると、この船が座礁したときに死んだ女の幽霊が、船に近づく者を食い殺す』というもので、いま船の中を懐中電灯を片手に歩いている子供達も、怖いもの見たさにこうして探検に来た、という訳だ。
「あ…扉だ。」
「勇兵、お前一番に入れよ。」
「え~?やだよ、海賊船お化けが出るかもしれないし。」
「お前いっつも後ろの方にいるじゃん。たまには前行けよ。」
「そうだよ、ズルいよ!」
「そ、そんなぁ…。」
勇兵と呼ばれた少年は、渋々前に出て、扉に手をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!