SCENE.5 対最速

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バトル開始まで後5分を切った。 アイツはまだ来ない。 Zのクセに峠を速く走るヤツが、未だに姿を現さない・・・。 逃げたか? いや、ヤツはそんな事しないだろう。 昨日わざわざ自分に会いきたんだ。 そこまでしていきなり逃げる事はないだろう。 そんな時だった。 「英二さん!下から黒のZが上がってきます!」 無線機を持っていた走り屋が、英二に報告する。 「そうか・・・来たか・・・!!」 英二は何故か嬉しさが込み上げて来た。 約束を守ってくれたから? 最速と呼ばれている自分から逃げなかったから? 違う! 自分より速いかもしれない青年(ガキ)と全力でぶつかり合えるからだ!! 最速とか関係なく、「一人の走り屋」として戦える事が嬉しいんだ!! 込み上げてくる感情を必死に抑え込み、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。 だがそれだけで、英二の沸き上がるテンションは抑えられない。 早く上がってこい! 英二は自分の中で叫んだ。 Zのボンネットから沸き上がるようなエンジンサウンド響く。 それはまるで叫びたい気持ちを抑えているようだった。 これから下る峠を、段々上へ登っていく。 頂上に近付くにつれて、冷や汗の量が比例して増えていく。 怖い? そんな感情じゃない。 頬が上に引っ張られるような感覚がある。 鏡を見なければわからないが、恐らく今自分の顔は笑っているだろう。 そうさ、俺達はこの瞬間が大好きなんだ。 心臓の鼓動を感じる。 ステアリングを握る手が汗で濡れている。 かなり緊張してるのがわかる。 でも、俺はこの一瞬一瞬が楽しくて仕方ないんだ。
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