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しかし、由比の返答は桔梗にとって信じ難いものだった。
「いえ、あの……僕の、部屋です」
部屋のドアを開けると、罰が悪そうに由比が答えた。
確かに、掃除が大好きで几帳面な由比のイメージとは駆け離れた部屋ではある。
生活スペースがほとんど無く、足の踏み場などベッドまでの通路に辛うじてあるぐらいで、物を掻き分けないと進めなさそうなほど大量に物が置いてある部屋だった。
だからと言ってゴミでは無く、どれも使えそうな物ばかりだ。
「……あれ?」
よく見ると、違和感があった。
由比は至って普通の男性だ。
羽忌のように女装趣味がある訳ではない。
なのに透明な衣装ケースの上に、大量にマニキュアや口紅が置いてある。
更にはペットを飼っていないのに猫缶や鳥の餌まであった。
明らかに、由比が使うとは思えない物ばかりだ。
「……また、随分と増えたねぇ」
羽忌が呆れたような溜め息を吐く。
「きょーちゃん、いくつか持ってく?」
羽忌が室内に入り、衣装ケースを物色する。
「いいんですか?」
くれると言うなら貰っておきたい。
何せ買い物にいくのでさえ山を降りて街まで行かねばならないのは時間と労力がもったいない。
「あ、私お財布ロッカーに……」
桔梗が廊下に出ようとするのを由比が制した。
「いいですよ、元手タダですし」
言った後で、由比が慌てて口をつぐんだ。
「これ!これ新発売らしいですから、持ってってください、あと、これとこれと、それから」
由比が棚や衣装ケースから化粧品やらお菓子やらゲームやら、とにかくなんでも鞄に詰め込もうとする。
ちなみにその鞄も部屋に大量に置いてある鞄の一つだ。
「ちょ、神坂さん、いいですよそんなに」
放って置くといくらでも詰め込まれ、しまいには鞄が増えてしまいそうだった。
「きょーちゃんならいいんじゃない?」
羽忌が化粧品やらアクセサリーを物色しながら話し掛ける。
「さすがに菜々ちゃんと猫ちゃんには無理だけど」
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