チイサナヒカリ

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「絶対だよ?何がなんでも嫌いにならないでよ?」  羽忌が桔梗を呼び寄せ、声を潜ませる。 「由比ちゃんはね、天才なんだよ、スリと万引きの天才」  屋敷を出てすぐ、前庭では宮古が庭木の手入れをしていた。  関わり合いにならないよう、ゆっくりと通り過ぎようとしたが、彼は桔梗の方を見る事なく声を掛けてきた。 「そこの中谷さん、お体の具合はもうよろしいんでございますか?」  そこのも何も、他に中谷はいないのだから普通に呼べばいいものを。 「えぇ問題ありません執事長。 ただ、大事を取って今日は自宅で休養するようにと、神坂さんが」 「そうでございますか」  嫌味ったらしく馬鹿丁寧な敬語を使ってやったのに、宮古はまるで気にも止めず微笑んでいる。  ふと鋏を持つ手を止め、宮古が桔梗に目をやる。 「お一人で大丈夫でございますか?」  意外な対応だった。  彼の優しい言葉というのは、なんというか、気持ち悪かった。 「えぇ、と…だい、じょうぶ、です」  思わずどもってしまったのは失敗だった。 「なんなら車で送りましょうか?」  これまた意外な提案だった。 「……結構です、近いですし」 「……なんでそんな気持ち悪い物を見るような目で見て、身を引いてるんでございますか?」  だって気持ち悪いから、とはさすがに言えず、渇いた笑いを浮かべてその場を去ろうとした。  その時だった。 「……え?」  見間違いだろうか。  今、宮古のうしろを光の塊のような物が横切った気がした。 「どうかしました?」  真っ昼間から幻覚だろうか。  蛍がこんな明るい時間に光っているとも思えないし、もっとも桔梗は蛍を見た事が無いのでよくは知らないが。  とにかく、割と大きめの光だった。  十五センチ程度だろうか。  十五センチもある時点で既に蛍ではないな、と頭を振る。 「まだお体の具合がわるいのですか?中谷さん」  桔梗がいつまでも返事をしなかったからだろう。  宮古が桔梗の額に手を当てた。 「え……ひゃぁっ!」  その手は羽忌の手よりもずっとしっかりしていて、びっくりして思わず手を振り払ってしまった。  その拍子にバランスを崩しかけたが、すかさず宮古が桔梗の体を支えた。
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