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もっとも、すぐに困ったように顔を歪めて桔梗を離したが。
「あ……申し訳ございません」
宮古は少し悲しそうに目をそらした。
彼でもそんな表情をするんだな、と少し不思議に思った。
二条宮古という男は、とにかく口も性格も悪い最低なヤツだと思っていた。
というのも、今までずっと桔梗の前ではそうだったからだ。
しかし羽忌に対しては礼儀正しいし、由比や棗に対しても面倒見のいい優しい所を見せている。
それに対して、七名島姉妹とは仕事内容しか話さないし、主人である合歓とでさえも距離を置いているように感じる。
何か、あるのだろうか。
そこまで考えた所で、やめた。
桔梗にとって宮古が嫌な相手だという事には変わりはない。
「とにかく、一人で帰れますから…」
今度こそこの場を離れようとしたその時だった。
またしてもその光が現れた。
ただし、今度はただの光ではなく、はっきりとした形として現れた。
ふわりと舞うように宙に浮かび、宮古の顔の前で止まると光が弾けて人の形を成した。
人の形と言ってもやはり十五センチくらいの、人形みたいな印象だった。
そしてそれは宮古の鼻先に指を突き付けると高慢な態度で言い放った。
「まったく、だらしないったら無いのぉおぬしは!女子(おなご)にはもっと優しくせんか!」
人形のようなそれは真っ白なワンピースを着ていて、不安定に虹色に変わる髪、そして透き通る白い肌をしていた。
「人形…いや……妖精…?え?喋ってる?」
訳がわからない。
混乱と彼女の髪の色が眩暈を引き起こし、意識が遠のいた。
「中谷さん?中谷さん!」
慌てたように手を伸ばす宮古から、ふわりと甘い香りがした。
シャンプーだろうか。
柔らかな髪の毛が、まるで夢の中のように幻想的に揺れた。
それはまるで、御伽話の王子様のように見えた。
宮古ならばそれが似合ってしまうところがなんだか悔しかった。
見た目だけなら本当に綺麗で、かっこよくて、そもそも最初は見た目でこの人を好きになったのだ。
それに宮古はまったく優しくないわけではない。
口が悪くて忘れがちだが、よくよく思い返せばいい所もあるのだ。
ただ、それを忘れてしまうほどに桔梗の前では冷たい表情ばかりなのだ。
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