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ふと、なんだかすごく心地の良い揺れと温もりを感じた。
温かくて、優しい。ずっとこうしていたい思うほどに。
ああ、そういえば眠ってしまったんだっけ。
でもいつからだろう。いつから、そして何故眠ってしまったんだろう。
ぼんやりした意識の中で、桔梗はゆっくりと目を開けた。
「おお、気が付いたようじゃぞ?宮古」
「静かにするでございますよ、ロード様。お体に障るでしょう」
最初に声のした方を見ると、女の子がいた。
多分見た事の無い娘だ。
多分というのは、なんとなくどこかで見たことがあるような気がするからだ。
背は低く、虹色に揺らめく長い髪が似合う、活発そうな可愛らしい娘だった。
次に目に入ったのは、背中だった。
見慣れた背中。
どんなに手を伸ばしても、届く筈の無いと思っていた背中。
その背中に今、桔梗は背負われていた。
「しつじちょ……」
意識がまだぼんやりしているせいか、うまく口が回らない。
「今、ご自宅までお送りしますから。直様にも連絡を入れておきましたので」
宮古が正面を向いたままだった。
別に薄着をしているわけでも、汗をかいているわけでも無いが、桔梗には宮古が無理をしているように感じられた。
穹浪家から桔梗の居候先である五十鈴家までは、結構な傾斜のある坂道な上、この村はどこの道路も舗装がされていないのだ。
そこをスーツに革靴、という格好で、しかも成人女性をおぶって歩くのだから足に負担がかからないわけがない。
車ではなく、おぶっているのも、桔梗に対する配慮なのだろう。
車でこんな悪路を走ったら確実に吐き気を催す。
「眠ってていいでございますよ?直様を通して部屋までお運びしますので」
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