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気が付くと桔梗はベッドに寝かされていた。
見知らぬ天井、見知らぬベッド、見知らぬ部屋。
桔梗は住み込みでは無い。
だからベッドになんて寝ている筈が無い。
ならばここは誰の部屋だ。
答えの出ない問いが思考を支配する。
部屋の中をもっと観察すればわかるかも知れないが、誰の部屋かもわからないのに勝手に見てまわっては失礼だろう。
どうすればいいのかわからず、とりあえずベッドから起き上がる。
部屋の内装は至ってシンプルだが、物が多い。
壁際には衣装ケースがいくつも詰まれていて、入りきらない中身が溢れ出しているし、窓際に置かれた机には乱雑にノートや文具が散らばっている。
「……だからっ!これは貴方の責任でしょう!?」
廊下から、女性の怒鳴り声が響いた。
この屋敷の女主人である穹浪合歓(そらなみねむ)だ。
宮古を連れて出掛けていたが、どうやら桔梗が寝ている間に帰ってきていたらしい。
どこで怒鳴っているのか、相手の声は聞こえなかった。
ドアを開けて廊下に顔を出すと、姿は見えなかったが微かに何度も謝罪を繰り返す声が聞こえた。
声の感じからして、由比だろうか。
だが彼にしては些か弱々しく、投げ遣りな声のような気がした。
「あれ?きょーちゃんもう平気なの?」
不意に声を掛けられて、桔梗はそちらに顔を向けた。
「あ、はい大丈夫です!」
相手を確認すると、桔梗は慌てて廊下に出て姿勢を正した。
「あ、あの……羽忌様、お出掛けになられていたのでは?」
恐る恐る桔梗は顔をあげた。
目の前に立つ少女と見間違う程の可愛らしい少年は心配そうな表情を浮かべていた。
「なおちゃん家にいたんだけど、由比ちゃんから君が倒れたって連絡受けて帰ってきたんだよ」
温厚で、いつも笑顔を絶やさない羽忌の表情は険しく、叱りつけるような口調だった。
「本当に大丈夫?まだ気持悪くない?」
羽忌が心配そうに桔梗の頬を両手で挟んだ。
「だっ、大丈夫ですよ!」
羽忌のてのひらが、思いの外小さくて柔らかく、すべすべしていたので、桔梗は慌てて身を退いた。
「あーあ、残念。こんな時なおちゃんだったら逆に手を押し付けてくるのに」
五十鈴直(いすずすなお)は羽忌の従兄弟で親友の一人だ。
そして直の家は桔梗の居候先でもある。
「可愛いんだよぉ?はぅ、羽忌気持いいですのーって」
羽忌は幸せそうに笑いながら直の真似をした。
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