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満面の笑みを浮かべる羽忌は何処をどう見ても女の子にしか見えなかった。
例えば数人の女の子のグループに紛れていても違和感が無いし、そしてナンパされたとしてもほとんどが羽忌狙いだろう。
彼を可愛いと思うのは男女問わず、桔梗も例外では無かった。
「……ん?由比ちゃん解放されたかな?」
そう言って羽忌は廊下の曲がり角に視線を移した。
羽忌に見とれて、和んでいた桔梗はゆっくりと意識を戻した。
「……誰もいませんよ?」
確かに、そこに由比の姿は無かった。
それどころか人の気配が無かった。
「えっと…とにかく由比ちゃん戻って来るから、慰めてやってよ」
可愛らしく顔の前で両手を合わせ、羽忌が片目を瞑った。
「なんで私が…そもそも神坂さん来ないじゃないですか」
その桔梗の言い方に反感を覚えたのか、羽忌が反論の言葉を返した。
「来るって!」
「来てないじゃないですか」
「来るもん!落ち込んでるからちょっと遅いけど、ちゃんと由比ちゃんは戻って来るんだもん!」
少しだけ、好きな子をいじめる男子の気持ちがわかった気がする。
本当に少しだけだが、いじめられてムキになる羽忌は可愛いと思った。
「大体、戻って来るってなんですか?」
この廊下には部屋が三つしか無い。
奥から宮古の部屋、空き部屋、そして桔梗が寝かされていた部屋だ。
あの散らかり放題の部屋が由比の部屋だとは考えられなかった。
「自分の部屋に帰ってくるに決まってるじゃないか!」
何を当然な事を、とでも言わんばかりに羽忌は言う。
「だから、その肝心の神坂さんの部屋はここには無いでしょう?」
だから桔梗も、嘲るように言ってやった。
危うく主従関係である事を忘れそうになる。
「だからぁ、来るのー!由比ちゃんはぁ!」
バタバタと忙しなく両手を振り回して抗議する羽忌を見て、桔梗は遂に堪えきれず笑い出してしまった。
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