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物語の主人公になりたかった。
華々しい活躍で世界に君臨してみたいと思っていた。もし――【英雄〔ヒーロー〕】じゃなくても――、ささやかな日常の主人公になれたらと思うこともあった。
しかし全てが叶わず、ただの【群衆〔モブ〕】だという事実だけが僕の目の前にある。事実が僕で、僕が事実で、今のところは覆しようがなく、悲しい位に堂々と存在していた。
世界は不公平だ。せめて気付かせてくれなければ、不満を抱かずに生きていけたかもしれないのに。夢も描けぬ世界に生きるのは苦しいのだ、と負け犬の遠吠えにもならない嘆きを吐き捨てる。それも誰にも気付かれない。幸か不幸か。僕にはどちらと断言出来ないが、いずれにしてもそれは寂しいことだった。
鏡の中に映る変哲のない顔を見つめていると諦めきれない醜さが覗いているようで、僕は思わず顔を逸してしまった。
早く家に帰ろう。世界から目を逸らして、夢見心地に浸りたい。
願うように扉を開けて、祈るように足を踏み出す。届かぬ世界の窓よりかは、踏み出す世界の扉の方が良い。結果は変わらずとも、幾分かマシだと僕は思っている。
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