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「ここだけ、なぜか雪が積もらないのです」
「えっ!?」
声を発した直久だけでなく、和久とゆずるもオーナーを振り返った。
「毎年、たくさんの雪がふるのですが、ここだけは絶対に雪が積もりません。昔からずっとそうだったようです。私どもはこれも山神様の力だと、伝え聞いています」
改めて、直久はその祠を見た。
石で出来た祠は、浸食が進みなんともみすぼらしい。こんな祠に、周りの雪を溶かす力があるとは、到底思えなかった。
(けど、こうやって実際に不思議な現象を目にするとなぁ……信じたくもなるよな、山神さまとやらを)
重たい沈黙が、一行を取り囲んだ。
ふと、ざわざわと風が木々を揺らす音が直久の耳に届いたかと思うと、蜘蛛の糸ほどの細い木漏れ日が、織糸のように幾重にも重なって、祠を照らしだした。
幻想的というより、物悲しい。自分の胸に寂しい気持ちが入り込んでくるようで、直久は“寂しい”以外の言葉を見つけることが出来ないでいた。
ここに、一人で取り残された生け贄の娘たちはどんな気持ちで、ここに立ち、この祠を見下ろしたのだろう。
彼女たちを思うと胸がぎりぎりと痛んだ。
沈黙を破ったのは、それまで静かに辺りを観察していたゆずるだった。
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