6 寒椿か……

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 一般人や直久が言うのではなく、和久やゆずるが口にすると、たとえ植物の名前だったとしても、ひどく危険で、禍々しいもののような気がしてしまう。  直久は、若干、怖気つきながらも周囲を見渡した。それで、初めて祠の周囲に真っ赤な花が咲き乱れていることに気がついた。 「寒椿か……」  椿は普通その名の通りに、春に咲く花を付けるが、他の草木が枯れる真冬に鮮やかに咲くものもある。それを寒椿と呼ぶ。  園芸にも華道にもまったく興味のない直久だとて、名前ぐらいは知っていた。  ── 寒椿 ──  なんと美しい花なのだろう。  美しすぎて、吸い込まれそうだ。 (妖艶ってこういうののことを言うのかな……うん、オレ今すごい頭よさげじゃね?)  直久が自己陶酔していると、ばっと和久が彼を振り返り、にっこりと笑った。そして、オーナーに向きなおる。 「帰りましょう」
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