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「いや。俺は今日は……」
ゆずるは口惜しそうに舌打ちすると、すっと目を伏せた。
今日は新月。
まるで月の光のように満ち欠けするゆずるの霊力。
夜空で身を潜める新月のように、ゆずるの強い霊力は、その一切が体の奥底で眠りにつく日だ。
つまり今日一日だけは、ゆずるは霊力を持たない一般人(タダビト)となる。
「そうか。しょうがないよ、今日は。でも、ゆずるの想像通りだよ」
あの祠にはもう……。
和久の目がゆずるにそう語った時、一人、相変わらず、わけが分かっていない直久は「何だ何だ?」と二人の顔を交互に見比べている。
和久は、いつものように、兄に向き直り懇切丁寧に説明し始めた。
「あの祠の主は、もうあそこにはいないんだ」
「いない? あの祠の主が?」
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