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ふるふると頭を左右に振って、直久はペンションの廊下を歩き出した。
退屈なオッサンの話を聞くよりも温泉だ。露天風呂だ。仕事第一なゆずるや和久とは異なり、自分はまったりと寛ぐためにやって来たのだから、とことん温泉を満喫してやる!
露天風呂への行き方を尋ねようと、オーナーの二人の娘たちの姿を捜す。
野生のカンというか、男のカンを働かせて、難なくテラスにいる八重を発見した。植木に水をあげている姿は、見とれるほど可愛らしい。
「八重ちゃん」
「あ、えっと……」
自分に声を掛けてきたのが、直久なのか、和久なのか、見分けがつかないのだろう。八重は困ったようにうつむいてしまった。
「俺は直久。兄の方だよ」
「ごめんなさい。見分けがつかなくて」
「気にしないで、それが普通だから」
彼女のそばにある白い椅子に腰掛けると、直久はにっこりと微笑みかけた。直久が、これが一番の自分のキメ顔だと思い込んでいる顔だ。
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