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「でもよ~、その神様はどこへ行ったんだ?」
「さぁな」
直久の当然の疑問に答えたのは、珍しくゆずるだった。ゆずるは小さくため息をついてから、面倒だな、と言った。
「生け贄を捧げられていた程だ。よほど力を持ったヤツだろう」
たしかに、と和久は思った。
今、完全に力を失っているゆずるには分からなかっただろうが、あの誰もいないはずの祠に和久は何者かの気配を感じていた。
それはおそらく、祠の主である『神』の残像に違いない。その残像だけで、祠の周りの雪を溶かすほどのエネルギーを保つことができているのだから、本体の力の強さは計り知れない。
できれば、かかわらずに済ませたい。
こちらがちょっかいを出さなければ、向こうからわざわざかまってくることはないだろう。
──よほど興味をそそられるものが、ない限りは……。
(ただ……)
和久は顎に手をやり、難しい顔になった。
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