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だが、ゆずるは乱暴にその手を振り払い、自力で客室に戻ろうとする。
「俺にかまうなっ」
「……」
和久はそれ以上強く言わず、ゆずるの背中を無言で見送った。そんな弟を見守りつつ、ゆずるを睨みつける直久。
和久がこんなに心配してくれているというのに。直久は心の中で舌打ちする。
人の厚意を一切合切受け取らない、むしろ、ゆずるのために良かれと思って接してくる相手をゴミでも見るかのように扱う態度も気に入らない。
「無理して山を登ったから……。ちょっと休めばまた良くなるよ」
そう言って直久を振り返った和久の顔は、困惑と寂しさが入り混じっているようにも見えた。
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