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「ありがとう。直久さんは、お父さんとお話しなくていいの?」
「ああ。いいんだよ。あっちはあの二人にまかせておけば」
「そう……」
極めて明るい口調で言って、さあこれから楽しい話でも一緒にしようではないかと、八重の心を落とす気まんまんに笑顔を振りまく直久なのに、突然、八重の顔が曇り、今にも大粒の涙の雨が降りそうになる。
まさか彼女のテンションが落ちるとは思っても見なかった直久は慌てて椅子から立ち上がると、彼女の顔を覗き込んだ。
「ど、どうしたの!?」
「……」
「八重ちゃん?」
直久は、どさくさにまぎれて、八重の細い肩に手を伸ばそうとした時だった。逆に八重の方が、直久の胸に飛び込み、泣きじゃくり始めたではないか。
「ええええ!? ちょ、え? えええ!? 八重ちゃん!? あの、その、落ち着いて! オレまだ何もしてない!!」
おたおたとしながら、どうすることも出来ずに、直久はしばらく立ち尽くした。時折、彼女の背中を、ぽん、ぽん、と叩きながら。
「ごめんなさい。私ったら、急に。直久さんの顔を見ていたら、なんだか……。もう、どうしたらいいのか分からなくて」
「どうしたの? オレでよければ話を聞くよ」
八重はすっかり赤く腫らしてしまった目で直久を見つめ、少し考えてから再び口を開いた。
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