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◇◆
「あなたがあの結界を張ったんですか?」
和久は男に隙を見せまいと気を張りつつ、疑問をぶつけた。だが、答えは聞くまでもない。そして、男も答えるつもりはなさそうだ。
「ほう、そなたたちにはアレが見えておるのか」
面白いものを見つけたというように、男がじろじろと直久を見やる。──と言っても、実体は八重のものだ。男の姿は八重の体の輪郭に重なるように見える。
男が人で非ざるモノであること、そして、八重の体を操っていることは明白だ。
「それにしても、面白いモノが掛かったものよ」
男が笑い、八重の口元が不気味な笑みを浮かべた。
くくく、と男の笑い声が八重の口から漏れ響く。もうこれ以上、八重の体を好きにされてなるものかと、和久が声を荒げようとした時、男が、すっと片手を僅かに挙げた。途端に、直久の体がぐらりとゆれ、床に崩れ落ちる。
「直ちゃんっ!?」
何かされたのかと、肝を冷やした。ところが、男はそんな和久を明らかにからかうような口調で言った。
「縛を解いてやっただけじゃ」
和久は唇を固く結ぶ。
あの強力な結界を、たった一瞬で解くことができるということか。自分との力の差をまざまざと見せ付けられ、和久は体の震えを止めることができない。
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