7 俺にかまうな

16/46
前へ
/280ページ
次へ
  「……どうした? 我に用があって参ったのではないのか?」  くくく、と笑いながら、男は部屋の中へと戻っていった。  これほどの力の差を見せつけられてたあとでは、部屋に入れ、と命じられたのと等しい。  和久は、床の上に尻餅をついたままの兄に目配せした。静かに兄は立ち上がり、自由になった体を確かめるように手首、足首を回してから、こちらを見て頷く。兄の体の異常はなさそうだ。  内心ほっとしつつ、視線を部屋へと戻した。  このまま部屋に入って大丈夫なのか。  罠ではないのか。  相手の正体も、その狙いもわからない状況では、判断がつかない。  もし、相手が殺意を見せた時、自分ひとりで兄を守れる自信がない。いや、無理だろう。自分の霊力の範疇を明らかに越えている。  しかし、断り相手の機嫌を損ねるのも利口とは言えまい。  味方につけることができずとも、せめて敵にしないように、逆鱗に触れぬようにしなくてはならない。  そのために、『これからあなたの縄張りで、悪霊と一戦交えるけど、気にしないでね。やっつけたら、さっさと帰るから』と、悪霊討伐の許可をもらっておくのが得策だろう。誰だって、自分の家の庭で、猫と犬が取っ組み合いの喧嘩を始めたら、うるさく思うものだ。  覚悟を決め、ぎりっと唇を噛みしめた和久は、兄に目で合図し、部屋の中へと足を進めた。 「あなたは……何者ですか?」   
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6347人が本棚に入れています
本棚に追加