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和久の声は、かすれた。
「我が先に問うたのだがのう」
面倒くさそうに、男は言う。だが、和久も引き下がらない。
「なぜ八重ちゃんに憑りついているのですか? 彼女をどうするつもりなのですか」
「八重……おう、この娘か」
口端を少し上げ、男はにやりと笑った。そして、高そうな皮製のソファーにその長身を沈めた。
「まあ、よい。結界を見破ったことに免じて、答えてやるかのう」
「あなたは、あの祠の主、山神──そうですね?」
ごくりと、喉がなる音がした。和久のではない。すぐ隣にいる兄のものだろう。いや、自分のだったかもしれない。
そう混乱するくらい、和久は自分が緊張していることに、気がついた。
「山神か……そうじゃのう、ついこの前までは、我をそう呼ぶ人間もいたのう」
「ってことは、あの祠の主なのかっ!!」
怖いもの知らずの直久は、あろうことに山神を人差し指で、びしっと指差した。
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