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「気にいらねぇな……」
ぼそりとつぶやいた直久の声を受けて、和久が再び直久を振り返り、力なく笑いかける。
「でも……正直助かったかな……」
そう言って和久は、ゆっくり首を動かし、ゆずるに労わりの視線を送った。つられて、ゆずるを見やった直久は、その痛々しい姿に釘付けになる。
(……ゆずる……)
ゆずるは、昨夜の悪霊の襲撃時のように、ぐったりとしていて意識がない。そればかりか、肩で息をして苦しそうに眉をしかめ、額には汗が噴出し頬まで伝っている。何も知らない人が見れば、高熱にうなされていると勘違いしただろう。
だが、それが風邪の症状でないのは、あきらかだ。ゆずるの顔は死人のように土気色をしていた。
きっと、救出がもう少し遅かったなら、このままゆずるは息を引き取り、本物の死人と化していただろう。今のゆずるの様子から、ただの死した細胞の塊となってしまったその姿が容易に想像でき、胸が痛んだ。
「そやつを心配している余裕はないと思うがのう。早う何とかせぬと、そなたたちも同じ運命をたどるじゃろうて」
くくく……。
まるで、山神の笑い声が部屋を寒々しくさせていくようだった。直久の腕に鳥肌が駆け上がる。
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