7 俺にかまうな

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  「……」  直久の背中を、一滴の冷たい汗が流れていった。それを合図に、体中の皮膚が、ざわめくように鳥肌を立たせていく。   その間も、盛り上がりは床から大きく伸び、ギョロリと見開かれた二つの目が姿を現した。  その血走った目が直久を一瞬とらえた。心臓がとまるかと思った。  だが、直久では悪霊のお眼鏡にかなわなかったらしい。生気を吸い尽くされそうなほど恐ろしいその視線は、直久から外され、和久を素通りし、ゆずるのところでぴたりととまる。  大きく裂けた真っ赤な悪霊の口がゆっくりと床から現れ、だんだんと口端が上がり、不気味にゆがんでいった。  ────見ツケタ……。    そこからは、一瞬だった。  頭部に続き、首、肩、胸部、腹部、そして下半身が、一気にぬうーっと姿を現したかと思うと、悪霊はものすごいスピードでゆずる目掛けて突進してきたのだ。 (!)  とっさに、両手を打ち鳴らし、部屋に結界を張ろうとする和久。  だが、悪霊はものともせずに、進入を果たす。そして、あっという間に三人に手が届きそうな位置に来る。  直久は何も考えていなかった。  ただ、勝手に体が動いていた。 (────っ!!)  間一髪で、ゆずると悪霊の間に体をねじ込むことに成功する。そして、必死にゆずるの体の上に覆いかぶさった。  次の瞬間。  
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