7 俺にかまうな

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◇◆ 「直ちゃん、しっかりして!ねぇ、直ちゃん!」  和久は必死で、兄の体を揺すった。その顔は血の気がなく、蝋人形を思わせるほどに青白い。次第に冷たくなっていくその身体を、和久は力強く抱きしめた。 「直ちゃんっ!! 目を開けて!! 何でこんな……直ちゃんっ!!」 「……ん……カズ?」  泣き叫ぶ和久の声に、床に横たえていたゆずるが意識を取り戻したようだった。悪霊が姿を消したため、ゆずるの頬に赤みがさしており、明らかに先ほどよりも状態が良くなっている。 「……どうした。何を泣いているんだ……」  ぼんやりとしたゆずるの視線が、ぐったりとした直久へと移るなり、ゆずるはがばっ、と半身を起こして、直久の顔を覗き込んだ。 「な……え!? ど、どうして!? 直久っ!!」  愕然として、動かなくなってしまった直久の体に手を伸ばすゆずる。その震える手が直久の頬に触れたかと思うと、ぱっと再び離れる。ゆずるも、直久の体の冷たさに驚き、恐怖を覚えたに違いない。直久を永遠に失う、という恐怖を……。  そして──全ての状況を飲み込んだはずだ。 「直ちゃんが、ゆずるをかばって……」  ギロっ、とゆずるが和久を睨んだ。
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