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「そんなはずない! この馬鹿がそんなことをするわけがないっ!!」
「……僕のせいなんだ……僕の結界では防げなくて……」
わなわなと唇を震わせ、ゆずるは直久を見下ろしている。
「だって……直久は……俺を嫌ってたはずだろう……なのに、なんでこんなっ!! 俺の代わりに死ぬなんて嘘だっ!! ありえない!!」
ゆずるの大きな瞳が揺れ動き、徐々に涙が溢れ出した。だが、泣くまいとするように、ぐっと唇をかみ締め、再び和久を睨みつけてくる。
「カズ、すぐに直久から悪霊を引き離せっ!!」
「……うん」
ゆずるに頷いて見せた和久だったが、霊を祓うだけの余力などなかった。それに、霊を払ったところで、直久が息を吹き返すことはない──決して生き返らない。それはゆずるにだってわかっているはずだった。
それでも、できないなどと、今のゆずるに言えなかった。
和久の頬を汗が伝う。小刻みに震える手で印を結ぼうとした時、それまで静観していた山神が口を挟んだ。
「やめておけ、今のそなたには無理だ。下手に霊を刺激すると、事態はよけいに悪化する。そやつが必死に守ろうとしたそなたまで、食われるぞ」
ぎりっと、矢のような視線を、ゆずるは彼に浴びせた。どうやら、そこで初めて彼の存在に気付いたようだった。
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