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うっかり直久の口からため息がこぼれる。
八重はそれを過敏に聞き取り、不安げに直久を見上げた。
「お姉ちゃん……治るよね? 悪霊を退治して、お姉ちゃんを治してくれるよね? お姉ちゃんまでどうにかなってしまったら、私……っ。私たち、お母さんを早くに亡くしてて、お姉ちゃんがずっとお母さんの代わりをしてくれていたの。歳なんてそんなに変わらないのに……食事や掃除、お父さんの世話まで。本当に細々したことに気が付いてくれるから、私もお父さんもついついお姉ちゃんに甘えてて。……なのに、お姉ちゃんにもし何かあったら、私、どうしたらいいのか分からない…」
こんなとき、直久は自分の無力さを痛感する。
役に立たない。
いらない。
何で生まれてきたんだ。
自分自身にそう言われている気がする。
「大丈夫。きっと、ゆずるとカズがよしのちゃんを治すから」
顔が強張っていることを自覚しながらも、それを相手に悟られないように直久は微笑みをつくった。自然に笑えたかな、と少し思ったその時。人の気配がして、ゆずると和久がテラスに姿を現した。
どうやらオーナーとの仕事の話が終わったらしい。和久が笑顔でこちらに近づいてくる。
「山吹さんが今日泊まる部屋に案内してくれるって……って、なにその手……」
和久の刺すような視線が、八重の肩に乗せられた直久の手に注がれている。
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