7 俺にかまうな

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 直久は首を少しだけ動かし、自分のおかれた状況を把握するための情報収集にとりかかった。  手も足もある。動く。痛くない。怪我はなさそうだ。  視野を広げるとアンティーク調の高そうな長ソファーに自分が横たえていることに気づく。よく見れば、他の家具も同じように西洋風でそろえてあるようだ。  神社住まいである双子の家は純和風。我が家ではないことは明らか。  ならばここはどこだ?  寝ころんだ姿勢のまま、直久はうなりながら腕を組み、細い記憶の糸をたどる。 (あーそうだった)  和久とゆずると一緒に、雪山に悪霊退治に来ていたんだった。 (八重ちゃんの体を好き勝手操っている山神と話していて。んで、和久が突然消えて、オレも追っかけようとしたら、どーんとかアイツらがオレの上に降ってきて……そのあと何があったっけ? ああ、そうだ。ぬーって床から悪霊が生えてきてグワーッて襲ってきたから、やべーってなって……で、何でオレ、寝てたんだ? 待て待て、オレってば、どっかで記憶すっ飛ばしたか?)  直久が、まだ正常とはいえない“残念な脳”をフル回転させ現状把握に努めた結果だったのだが、最後に行き着くところがやはりずれている。普通なら、『そうだっ! ゆずるは!?』とか叫びながら飛び起きそうなものだ。 「あ、やっと起きた? それにしても大きな寝言ね。まあいいわ。──それで? あなた誰なの? 突然私の部屋で、ぐーすか寝てるからびっくりして、思わず叫ぶところだったわ。まったく、どこから入ったの?」  聞き覚えの無い少女の声に、完全に我に返り、直久はがばりと体を起こした。そのせいで、すぐ目の前の椅子に姿勢正しく腰掛けていた少女が、びくりと硬直する。 「な、なに?」  じっと直久を覗き込む黒髪の少女。  彼女が身にまとう真っ赤な着物に、黒艶の長髪は、実によく映えた。大きな瞳は黒曜石のように黒々として、直久の顔を映しこんでいる。そして、雪のように白い肌に、赤みがかった頬が愛らしく、ぷっくりとした唇は大きすぎず、形も良い。 (この娘……どこかで……見たことあるようなないような……)  
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