7 俺にかまうな

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 自分を凝視したまま動かなくなった直久に、彼女は怪訝そうな顔をした。 「あなた……口が利けないの?」    小さくため息をついて、彼女は立ち上がった。そしてソファーの前にある円卓においてあったコップを手に取る。 「水、もって来るわ。のどが渇いたでしょう?」  ふっと笑った瞳が、どことなく儚げで。それで直久の記憶の糸が答えを導き出した。 「……ツバキさん?」  部屋を出て行こうと、体の向きを変えた彼女の動きがぴたりと止まる。  驚きに見開かれた黒曜石の瞳。その光が、一瞬だけ曇ったような気がした。 「ああ、なんだ。……私はアヤメの方よ」 「あれ、違ったか。似てたからてっきり。自信あったんだけどなぁ」  ツバキ──あの廊下に飾ってあった肖像画の少女。  最後の生け贄となるはずだった少女。 「似てるに決まっているでしょう。双子だもの」 「え?」 「……え?」 「双子なの?」 「……あなた、何しに来たわけ? 姉に用があってうちに来たんじゃないの?」 「え? え? 話が見えないぞ? どういうことだ?」
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