7 俺にかまうな

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  「君は、さっきオレが目覚める前に、泣いてたんじゃない? 瞼が少しはれていたから」  アヤメの顔がカーと赤くなる。その反応から、直久はやっぱりなと思った。 「泣いてない!! 想像でものを言わないで」  否定しても、もう遅い。仮説はすでに直久の中で確信に変わっていた。  やはり、自分はこの娘に呼ばれたのだ。生け贄になる予定のツバキではなく、アヤメに。  直久は、もう一度、アヤメの両肩に手を置き、自分の正面に立たせた。まっすぐな強い視線が、アヤメの黒曜石の瞳をとらえる。 「力にならせてよ」  アヤメが直久から逃げるように視線をはずす。 「……本当に、私は何も困ってないわ。ツバキの力になってあげて」 「君の、アヤメさんの力になりたいんだ。だから、なんで泣いていたのか話してくれないかな?」 「だから、泣いてないってば! もういい加減にしてっ!! 出て行って!!」 「え、あっ、ちょっと、まって、ねえ」  アヤメは直久の背を押して、部屋の出入り口まで運ぶと、力いっぱい廊下へ突き飛ばした。そして、勢いよく、バタンと音を立てて扉を閉めてしまう。 「ちょっ、ちょっとアヤメさーん。開けてよぉ~」  しばらく直久の間延びした声が廊下に響いていたが、アヤメがふと、廊下が静かになったのに気がついて、部屋の扉を僅かに開け、のぞき込んだ時には、直久の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
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