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一点の曇りも無い笑顔を向けられる。弟のその屈託の無い笑顔は、アヤメの心の奥深くまで突き刺さった。それでも、何事も無かったかのように、アヤメは微笑む。
「おはよう、アカネ」
胸に飛び込んできたアカネを、しっかりと抱きとめる。
「おはようございます」
その心地よい声色に、アヤメの全身がそっとざわめきたった。
アカネが連れてきたのだろう。そこには背の高い、ごく整った顔立ちの青年が立っていた。年頃は二十代前半といったところだろうか。まだまだ笑顔に少年っぽいあどけなさが残っている。
青年は、アヤメと目が合うと、ペコリと頭を下げた。その拍子に無造作に伸びた前髪がさらさらと揺れ動き、アヤメは目を奪われる。
触ってみたい。きっと彼の髪は柔らかくて、絹のような肌触りに違いない。思わず手を伸ばしそうになり、自分の髪をかきあげるフリをして誤魔化した。
「おはようございます」
ほんのり赤らんだ頬で、アヤメは青年を見上げた。
「清次郎さま、こんなに早くからお仕事ですの?」
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