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◆◇
扉の中に入ると、地下へと続く階段に出迎えられる。
階段には照明器具や明り取りなどといったものが一切なく、清次郎が手にする明かりのみが、むき出しのまま薄汚れた土壁を照らしている。
無数に走る壁のヒビや穴、シミなどが不気味に彼に笑いかけているようにも思え、何度来ても肝が冷える。薄気味悪い、の一言では片付けられない。
一段一段降りていくにつれ、かび臭さが強まり、ひんやりとした肌寒さを伴う風が下から階段を上ってくるようだった。通気口は確保してあるのだろう。おかげで、息苦しさや、空気の籠もったような匂いはしない。
だが、雪深きこの地方。真冬に隙間風が通る場所で暖房もなく過ごさなくてはならないというのは、拷問である。そうでなくても、そこはまるで牢獄。一応、人が住めるような造りをしているが、‘一応’でしかない。
こんなところに閉じ込められなくてはならない理由が、この少女のどこにあるというのだろう。
何が罪だというのか。
「ツバキ」
階段を下りきって、清次郎が優しく名前を呼ぶと、その囚われの少女がふわっと微笑んで迎えてくれた。
彼女は、生まれてから、一度もこの地下部屋から出たことのない。
おかげで、どんなに外の世界が汚れていようと、人の心がいかに醜かろうが全く関係なく、清らかにそこに存在している。
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