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無垢で、可愛いツバキ。
ツバキを前にすると清次郎は堪らなくなる。
なぜ。
なぜ、彼女は笑えるのだろう。
こんなにも優しく。こんなにも美しく。
「どうしたのですか? 浮かない顔をして」
「ツバキ……」
清次郎は力いっぱいツバキを抱きしめた。
彼女がこの牢獄にとらわれることになった罪。それは──この家に生まれたこと。
だが、それは彼女のせいではない。彼女の選んだことでもない。
それを、誰も彼女に教えるものがいない。村人や、家族、彼女の双子の妹までも、硬く口を閉ざしている。
彼女がもし、それを知ってしまって、『いやだ』と泣き叫ぶのが怖いからだ。
彼女がもし、逃げてしまったら、その代わりとなるのが嫌だから。
だから、彼女はこの部屋に閉じ込められている。真実から遠ざけるために。生け贄となって死ぬその日まで。
実際、ツバキはこのまま生け贄となることを受け入れるだろう。その他に自分が生きている理由を知らないからだ。
幼い頃から、『おまえは十七歳になったら、村のために神に召されるのだ。これは名誉で、ありがたいことなのだよ』と、言い聞かされて生きてきた彼女にとって、生け贄になることはごく当然のことで。彼女の大好きな父親から、褒めてもらえる唯一のことだった。
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