8 ツバキとアヤメ

10/12
前へ
/280ページ
次へ
 自分がこの少女に教えてやりたい。  “生きている”ということを。  幸せを実感する日々を……。  清次郎がまた険しい顔になったので、彼女は彼を元気付けるように笑った。 「清次郎さんは、寂しがりやですのね」  その笑顔が、今でも十分幸せです、とでも言い出しそうな気がして、彼は切なくなった。 「ああ。君が居ないと、僕は生きていけないんだ」  そう言ってツバキの額に、そっと口付けた彼の目には、いつしか強い決意が浮かんでいた。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6347人が本棚に入れています
本棚に追加