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持ち前の切り替えの早さと、筋金入りの楽天主義が、実は何度も直久の命を救ってきたのかもしれない。
実際、アヤメの部屋から、半ば汚いもののような扱いでつまみ出された直久の次の行動は早かった。いくら騒いでも目の前の扉が再び開かれることはないと悟った直久は、一変して静かになり、難しい顔で腕を組んでいた。
確かにアヤメは、何か悩みを抱え込んでいそうだった。その問題を解決してやれば、自分はもとの時代に帰れるかもしれない。
だが、直久の中で何かひっかかるものがある。
──『助けが必要だとすると、ツバキの方よ』
不意に、アヤメの言葉がこだました。
自分をここに呼んだのは、本当にツバキなのだろうか。アヤメがそう断言するのは、何か根拠があるはずだ。
(……一方聞いて、沙汰するな。喧嘩両成敗。文武両道。四民平等……だな)
意味がわかっていて使っているのかと疑いたくなるような単語で、自分を納得させるように一人うなずいた直久は、次にきょろきょろとあたりを見回した。
見覚えのある長い廊下に、真新しい額縁で飾られた少女たちの肖像画が並んでいる。それで、直久は自分の現在地を把握することができた。
直久たちが訪れた山吹家のペンションは、明治時代、山吹家の先祖が日常生活を営む民家だった、と和久が言っていた。つまり、ここが明治時代ならば、このアヤメの部屋は山神がいた三階の東端の部屋に違いない。
ということは、ずいぶん色が鮮やかだったので気がつかなかったか、さっきまで直久が寝ていた長ソファーは、あのインチキ山神がえらそうに踏ん反り返っていたソファーだったのだ。
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