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直久の目が扉に釘付けにされる。
見たくない。
見てはいけない。そう思うのに!
直久が凝視する中、分厚い木製の扉から、すーっと、白く美しすぎる手が現れた。扉は一切開いていない。その手が扉を突き抜けているのだ。
直久は思わず、のけぞる。まっすぐ伸びてきた白い手は、その手首までゆっくりと姿を現すと、ぴたりと動きを止めた。
逃げなきゃ。今、すぐ、ここを離れなきゃ!! そう思った時だった。
白い手は目にもとまらぬ速さでゴムのように伸び、直久の襟首を鷲づかみにした。反射的に直久は息を呑む。
「っ!!」
次の瞬間、ぐっと強い力で扉のほうへ引っ張り込まれた!
「うわああああ……あれ?」
目をつぶり、恐怖に震えた直久のあげた悲鳴は、意外にもすぐに止まった。
「ん? どうなったんだ?」
直久はきょろきょろとあたりを見回したが、先ほどの不気味な手も、恐ろしい気配も、どこにもない。
(ドア抜けしちゃった……の?)
五体満足であることを確かめるように、両手で体中をパタパタと叩いて見る。どこも痛くない。
わけがわからず首をかしげる直久。とりあえず、無事ならいいのだ。
(ていうか、なんだここ? 真っ暗でよくわかんねぇし……)
薄暗い部屋を照らしているのは壁に取り付けられた小さなランプの光。少しかび臭い。それに、うすら寒い気がした。
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