9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

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 いったいここはどこだろう。  明らかに、あの扉の前ではない。あのまがまがしい扉が見当たらないからだ。窓も見当たらない。だからか、まだ昼間なはずなのに、夜中だと錯覚しそうだ。  直久は少し手を壁に手を伸ばしてみる。壁紙も張られていないむき出しの土壁が、じっとりと指に触れた。  おそるおそる一歩踏み出してみると、すぐ先は下り階段になっているのが分かった。背後は壁。これは階段を下りろと言われているようなものだ。目には見えない誰かの指図に従って動くのは癪だったが、だからと言って他に道はない。直久は一歩一歩踏みしめるようにして階段を下りた。 「清次郎さん?」  長く続いた階段をようやく下りきった時だった。直久の心臓が、どきりと跳ねる。反射的に顔を上げて、暗闇の中、必死に目を凝らした。  階段の下はどうやら部屋になっているらしい。西洋風のテーブルと椅子、箪笥やベッドなどの家具が見えた。  やがて暗闇に目が慣れると、部屋の中にうっすらと人らしき輪郭が浮き出て見えてきた。誰かがいるらしい。声からすると女の子だ。 「まあ、清次郎さんなの?」 「え、清次郎? ……うわっ!」  嬉しそうな声をあげ、誰かが直久に飛びついてきた。お互いの鼻がくっつきそうな至近距離になって、やっと少女の顔が認識できる。  そして、直久は、はっと息を呑んだ。  つい先刻まで、別の場所で目にしていたアヤメとまったく同じ顔が目の前にあったのだ。 (────まさか、この子がツバキ!?)  直久の目が驚きに見開かれるのと、ほぼ同時に、彼女も自分がいま抱きついているのは思っていた人と違う人物であることに気がついたのだろう。小さく悲鳴をあげて、直久を突き飛ばした。 「だ、誰なの!?」  彼女の声はおびえたように震えていた。 「君って、ツバキちゃん?」
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