9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

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  「やっぱりあたなは神様なのね」  机の上にある金属製の器を手にとるツバキ。どうやら油さしのようだ。 「でも、神様。わたくしは何も望みません」  ツバキがマッチを手に取り、ランプに火をともす。ジュッとマッチが擦れる音がして、ツバキの顔がはっきりと映し出された。その表情から、彼女の真意がまったく読み取れない。 「え、だって!!」  直久はなんとか、君はもうすぐ死んでしまうんだろう、という言葉を飲み込んだ。  死にたくない。ここから出して。そう言われるにちがいないと思っていた。  そうでなくても、死ぬ前にどこへ行きたいだとか、何がしたいだとか。自分だったら、山のように出てくる。 「わたくしは、十分に幸せですわ。だから何も望みません」 「そんな……」  本心から言っているのだろうか。直久にはとてもそうは思えなかった。  おそらく彼女は、この寒くて暗い地下部屋に閉じ込められているのだ。彼女を生け贄とするために。それを彼女が嫌がり、逃げ出さないように。  こんな部屋に閉じ込められ、ただ死を待つだけの人生が幸せ?  たった十六年間の人生が? 「君は……」  直久は、続く言葉をみつけられなかった。確かに、彼女は満面の笑みを浮かべていたからだ。  ああ、本当に。  心のそこから、彼女は微笑んでいる。それが分かった。
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