9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

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 直久は暗闇の中だというのに、自然と目を細めている自分に気がつく。  幸せだ、と言い切れる彼女が。  その言葉の一つ一つが。  なんだかうらやましく思える。まぶしかった。  自分はどうだろう。同じ十六年を振り返り、胸を張って幸せだったと言えるだろうか。  でも、と直久は思う。  それは、彼女が何も知らないからではないか。  こんな暗い部屋に閉じ込められて、外界を知らずに、他の楽しいこと、興味深いことから遮断され。与えられたものだけを消化する毎日であれば、探求する楽しみを知らないのは当然だ。  欲しいものを手に入れるために、人は努力する。手が届かないのならば、届くような人になろうとする。  でも、生きていくに事欠かないだけのモノを与えられていれば、それで満足するのではないだろうか。その現状で、幸せを感じるのではないだろうか。草原を知らない動物園のライオンのように。生きる苦しみを知らない彼女だからこそ、幸せだと言い切れるのではないだろうか。   (……こんなの、本当の幸せじゃない。これでいいはず無いんだ)  彼女にだって、生きる権利がある。  友達と笑い合い、恋人と愛し合い、我が子を抱いて、孫と遊ぶ。そんな当たり前の人生があるはずなのだ。いや、彼女の人生にその選択肢があるということを知る権利がある。  誰も知らせないまま、彼女が笑って生け贄になって行くのは間違っている。卑怯だ。村人も、彼女の家族も。町中がグルになって、事実を隠しているに違いない。
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