2 そこの壁にたくさんの目が!

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「いいよ、教えてあげる。今回の依頼は、夜な夜なペンションに出てきて営業妨害している幽霊を退治してくれというよりも、悪霊によって害を受けている女の子を救って欲しいというものだったんだ。なんでも、この家は代々、長女が十六歳になると、生け贄としてささげられていたらしいよ」  ──だけど、科学の栄える現代において、神の祟りをおそれ、人身御供をしようと考える者はない。いつしか生け贄など必要とされなくなり、忘れ去られていった。人身御供のあったという事実も、生け贄にされた少女たちの存在も。  ところが、それらは、この家の者たちにとって、けして遠い昔の物語ではなく、今もなお継続される現実だった。  人身御供をやめてから百年以上の歳月が過ぎ去っている。その百年の間、この家で誕生した長女は、かつて生け贄に出されていた年齢になると、生気が抜けたようになってしまうのだという。何に対しても反応がなく、自ら動こうとしない。それは、まるで──。 「──人形のようになってしまうんだって」  直久はごくりと唾を飲み込んだ。八重から聞いていた話と同じだ。 「なんでも、山吹さんの実の妹さんも、十六歳になったその日から様子がおかしくなってしまったそうだよ」  つまり、ここのオーナーは自分の娘が人形のように抜け殻になってしまうことを恐れているのだ。  自分の妹と同じようになるかもしれない。オーナーは娘を授かったその日から、その娘がいつか不条理な目に遭い、不幸になってしまう恐怖を抱えて十六年間を過ごしてきたに違いない。
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