9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

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  「今晩、私が彼女のところへ手渡しに行きます」 「え? あ……いや、私が頼まれたので……」 「いえ。私もツバキの生きた証として、彼女の白い着物がほしいわ。だから、私が持っていきます。大丈夫、こっそり行きますわ。お父様に知れたら大変ですものね」  有無を言わせぬアヤメに、困ったような顔をした清次郎。だが、アヤメの満面の笑みに安心したのか、それともつられただけだったのか。彼もしだいに笑顔になっていく。 「だって……ツバキを助けてくれるのでしょう?」 「……えっ!?」  どうしてそれを!?   完全に凍りついた清次郎の顔に、はっきり書かれている気がした。  なんてわかりやすい人なのだろう。もう少し、嘘の上手い、ヒドイ男だったらどんなに良かっただろう。  アヤメは、倒れそうなほどの激痛を胸に感じながらも、必死にそれを笑顔で隠す。 「私の着物を着たツバキを連れて、逃げてくださるのでしょう? 私も手伝います」 「……アヤメさん……」 「ツバキは私のたった一人の姉です。生きていてほしいと思って当たり前でしょう? もう二度と会うことができなくとも、どこかで幸せに暮らしていてさえくれば、それで十分ですわ」     清次郎はアヤメをじっと見つめている。真意を伺おうとしているのだろうか。  でも、そんな彼の視線など、今のアヤメには怖くない。この醜い心が彼にあばけるわけが無いのだから。  ついに、清次郎は観念したように、ふわりと笑った。 「わかりました。ではお願いします」
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