9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

20/33
前へ
/280ページ
次へ
  「ええ。私が今夜1時に私のこの赤い着物を、ツバキに着せます。そして、屋敷の外へと連れ出します。清次郎さまは、裏門のところで待っていて」 「わかりました」  そして、アヤメは今まで生きた中で、最高の笑顔を彼に向けた。それを見て、安心しきったように、彼は部屋を出ていく。その清次郎の背中を見送りながら、アヤメは自分の心はどんどんと黒い闇に侵されていくのを感じていた。 「……清次郎さま!」  振り向いた清次郎の笑顔が、まぶしくてアヤメは思わず目を伏せる。 「ツバキを……お願いします」 「はい。幸せにしてみせます。ご安心ください」 「…………ありがとう」  アヤメは深々とお辞儀した。もう隠しきれる自信がなかったから。  自分ではなく、ツバキのために生きようとしている彼に対する憎悪を。  何も知らずに彼をひとりじめできる、ツバキに対する妬みを。  そんな二人を自分一人の幸せのために利用しようとしている、醜い自分を。  ──カチャ……。  静かに閉じられた扉。  顔を上げたアヤメの目には、決意がにじんでいた。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6347人が本棚に入れています
本棚に追加