9 どっからどうみても、オレはイケメン高校生でしょう?

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  ◇◆  アヤメはその扉の前に立っていた。一階にあるというのに、奥まった場所にあるせいか、それとも生け贄として死んでいく娘たちへの罪悪感からか、この扉の前に姿を見せるものは、ほとんどいない。  アヤメたち双子の両親だとて、自分の娘が生け贄となるというのに、年に数回ほどしかこの部屋の鍵を開けることはない。  この十六年間、ほとんど毎日のように、汚物を片付けたり、部屋を掃除したり、食事を運んだりと、ツバキの世話をしていたのは、口の聞けない村の老婆だった。  もちろん、今までアヤメがこの扉を開けて中に入ったことは、一度も無い。  そして、それは今日が最初で最後になるのだ。 「…………開けるわよ」  アヤメは背後をちらりと振り返った。アヤメの二歩後ろにいた直久が、彼女をじっとみつめたまま、深く頷いた。それを受けて、アヤメも頷き返す。  膝を冷たい床に着いて屈み込むと、アヤメは自分の手の震えを直久にばれないように必死で隠し、鍵穴に差し込んだ鍵をゆっくり回す。  ──ガチャリ……。  不気味に静まり返った屋敷に、鍵の回る音が、妙に大きく響いたように感じた。 「……」  これから自分のしようとしていることがどんなに醜いことなのか、それは自覚していた。  でも、心はもう止められない。  もう、後戻りはできない。するつもりもない。 
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