6347人が本棚に入れています
本棚に追加
「やあ、ツバキちゃん。オレのこと覚えてる?」
「まあ、えっと、イケマンさんでしたからしら」
「おっしぃ~。イケマンてなんだよ。イケメン、イケメン!! ていうか、それ名前じゃないから。オレは直久!」
「あら、名前ではなかったのですか。申し訳ありません。直久さまですのね」
「“さま”はやめてよ~。なんかくすぐったいや。直ちゃんでいいよ、直ちゃんで」
一人真っ暗な階段に取り残されたアヤメは、放心したようにその二人の会話を聞いていた。
(……な、なんなの、この軽いかんじ……)
アヤメは急に、ひとり怖がって前に進めなかった自分が、馬鹿みたいに思えてきた。
ふう、と小さくため息をつくと、今度は軽やかに階段をくだり、アヤメも部屋の中に足を踏み入れた。
「ああ、アヤメちゃん、遅い遅い~! やっと来たよ」
直久の声に、ツバキがゆっくりとアヤメを振り返った。
アヤメの心臓が跳ね上がる。
「ツバキ……」
暗闇に目が慣れたせいか、部屋の中は意外と明るく感じた。ツバキが夜着をまとい、長い髪を下ろして、直久の前に立って、じっとアヤメを見つめている姿も、はっきり見える。
最初のコメントを投稿しよう!