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アヤメは自分が石になってしまったのではないかと思った。
足が動かない。それ以上部屋に入ることが出来ない。
そんなアヤメとは対照的に、ツバキはアヤメから視線を離さず、ゆっくりとアヤメに近づいてくる。
────コツ……コツ……。
木製の床が、乾いた音を立て、ツバキの後についてくる。
「…………」
目の前にたどりつくと、ツバキはピタリと足を止め、まじまじとアヤメを見つめた。
アヤメはごくりと唾を飲み込む。
怖かった。
全てを映し出す鏡を見ているようで。
今から自分がしようとしていることを、すべて見透かされてしまっているようで。
何か言葉を繰り出そうと、アヤメは口を開く。
「……っ」
だが、声が出てこない。
と、そんなアヤメを観察するように見つめていたツバキが、ふいに笑顔になった。
「アヤメね」
「…………」
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