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怖い。
この子は、どこまで知っているの?
(でも……ツバキ……あなたには清次郎さまは渡さない……)
アヤメは、静かに目を伏せた。
「……じゃあ、今からその雪を見に行きましょう」
「え?」
「あなたをここから外へ出してあげるわ」
アヤメは自分の組んだ指を見つめながら言った。それで、かすかに指が震えていることに、気がついた。
「オレらは君をこの部屋から外へ出すために来たんだよ」
直久がアヤメに口裏を合わせてくれた。
「でも……」
彼女がこの部屋から出ることは許されない。彼女の中では神よりも絶対的な存在である父の命令だ。けれど、外の世界は見てみたい。そんなツバキの葛藤が、手にとるようにアヤメには伝わってきた。
「雪を見に行きましょう?」
アヤメは笑う。必死に笑う。
その笑顔のアヤメと直久に安心したのか、やっと首を縦に動かした。
「そうと決まれば、急いで着替えなきゃ!」
直久は薄着のツバキに着替えを促した。
「オレ、上で待ってるから、早くね!!」
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