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「見て~! すごいわ、すごいわっ!!」
空から降り注ぐ雪に大はしゃぎで、くるくると踊りまわるツバキを横目に、直久は地面にへたれこんだ。
「んだぁああ、つかれたっ!」
今も昔も、この屋敷ときたら、玄関から表の門扉までの距離が、並み外れて長い。そこへ、目にするもの全てに心を奪われて、まったく前に進まないツバキ。いいかげん痺れをきらした直久が、ツバキを背負って門扉まで全力疾走した、というわけだ。
「もうっ……ちょっとっ……狭くていいとっ……思うっ、この屋敷!!」
息が切れてもなお、誰かに文句を言いたくてしかたない。直久は今現在そんな状況といったところだ。
まだ、ぶつぶつと何かを言いながら、直久は雪の上にごろりと仰向けになる。すると、雪が降り注いでくるのが見えた。
そういえば、こんなふうに雪が降るのを見たのは初めてだなあ。直久は暢気にそんなことを考えはじめた。
真っ暗な空から降って来る雪は、自分の生きている時代でも、彼女たちが生きている時代でも同じ。永遠にその姿を変えることなく、静かにあたりの音を消しながら降り積もる。そう考えると不思議だ。
「ねえ、直ちゃん! 雪って食べてもいいの!?」
無音の世界にひたっていた直久の耳に、無邪気な声が飛び込んできた。見上げると、ツバキが両手を大きく広げ天を仰いでいる。
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