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「食べてもいいけど。味しないよ?」
「ホントね、よくわからないわ」
「でしょ……って、食べたんかいっ!」
「落ちている雪は? 食べてもいい?」
「それは止めなさい」
思わず、幼稚園児をたしなめる保父さんのように直久は言った。
「ケチっ!」
「け、けちっ!? どこでそんな言葉をっ!」
「ヒミツーーっ!!」
ツバキは本当に楽しそうに、走りまわった。
「あ、ちょっと! 遠くにいっちゃだめだよ~?」
なんだか、お父さんになった気分だな、と直久は思った。手がかかるし、目がはなせなくて危なっかしいし、疲れるけど、それ以上に、ほほえましく、胸があたたかくなるから不思議だ。
一つ一つの反応が、無邪気で、新鮮で。そういう見方があったのかと、再発見させられる。
彼女を好きになった清次郎の気持ちが少しだけ分かるきがした。
(……それにしても遅いなぁ、アヤメさん)
直久は、じっと屋敷の方を見た。いくら目を凝らしても、赤い着物の少女の姿は見えてこない。
「誰かを待っているの?」
小さくため息をついて、背後を振り返った。
ツバキはきょとんとした顔で、直久を見つめ返す。
「うん、ちょっとね」
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