10 寒椿

3/67
前へ
/280ページ
次へ
  「食べてもいいけど。味しないよ?」 「ホントね、よくわからないわ」 「でしょ……って、食べたんかいっ!」 「落ちている雪は? 食べてもいい?」 「それは止めなさい」  思わず、幼稚園児をたしなめる保父さんのように直久は言った。 「ケチっ!」 「け、けちっ!? どこでそんな言葉をっ!」 「ヒミツーーっ!!」  ツバキは本当に楽しそうに、走りまわった。 「あ、ちょっと! 遠くにいっちゃだめだよ~?」  なんだか、お父さんになった気分だな、と直久は思った。手がかかるし、目がはなせなくて危なっかしいし、疲れるけど、それ以上に、ほほえましく、胸があたたかくなるから不思議だ。    一つ一つの反応が、無邪気で、新鮮で。そういう見方があったのかと、再発見させられる。  彼女を好きになった清次郎の気持ちが少しだけ分かるきがした。 (……それにしても遅いなぁ、アヤメさん)  直久は、じっと屋敷の方を見た。いくら目を凝らしても、赤い着物の少女の姿は見えてこない。 「誰かを待っているの?」  小さくため息をついて、背後を振り返った。  ツバキはきょとんとした顔で、直久を見つめ返す。 「うん、ちょっとね」
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6347人が本棚に入れています
本棚に追加