10 寒椿

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 違うのは、この着物の色だけだった!  それなのに、家族でもない彼に自分と姉との区別がつくわけがないっ!  動揺を隠し切れずにいるアヤメの手を、清次郎は振り払った。黙ったままのアヤメの表情を肯定と読み取ったのだろう。 「違和感がありました、あなたのを抱きしめた時。それは次第に強くなりました。あなたはツバキではない」 「なんで!」  アヤメは咽が裂けるほどに叫ぶ。 「私とツバキなんて、どっちだっていいじゃない! どっちだって一緒じゃない!」 「アヤメさん……」 「顔も、声も、背の高さも、すべて同じよ! 何が違うというのよっ!? あなたがほしいのはこの器(からだ)でしょう!?」  清次郎は寂しそうな目をした。そして、ゆっくり首を横に振る。 「違いますよ。反応のひとつひとつをとっても。そうですね……確信したのは、この雪です。彼女は雪を見たことが無い。きっと彼女ならば、ふわふわと舞うこの雪に目を奪われていたことでしょう。僕の存在を忘れるほどにね」  清次郎は嬉しそうに目を細め、天を仰いだ。その笑顔は、ツバキに向けたもの。雪を見て、はしゃぐツバキに向けられたもの。それがわかるから、アヤメはますます、惨めな気分にさせられる。
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