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◆◇
なぜかは分からない。直久は、いつの間にかそこにたどり着いた。体中がアヤメを探し出すためのコンパスになったのではないかと思うほど、何かに引っ張られるようにして二人の元にたどり着いた。
裏門の目前にして、泣き落ちるアヤメ。それを、冷ややかに見つめる青年。
その二人の間には、空よりも高く、地よりも深い隔たりを感じた。
「アヤメさん……」
不思議な感覚だった。アヤメの心がなだれ込んでくる。
彼を愛してしまったこと。彼と逃げるために、今日のことを計画したこと。そして、ツバキとして彼に愛されようとしたこと。自分を殺して、ツバキになろうと決めたこと。
次々に、彼女の心が入り込んでくる。直久の心がアヤメに共鳴するように、自分が彼女になってしまったように。
悲しみ。妬み。怒り。孤独。不安。絶望。
そして、確信する。
彼女だ。自分を呼んだのは。
ツバキじゃない。アヤメのほうだ。
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