10 寒椿

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 直久が、そう思った瞬間だった。  ─────助けて! 私はここにいるの!  直久ははっとした。  今、一瞬、何か聞こえた気がした。アヤメかツバキの声だった。しかし、アヤメは泣くばかりだし、ツバキはここにはいない。 (なんだ?今の?) 「ツバキはどこにいるっていうんです、アヤメさん」  清次郎の声に直久は我に返り、二人を見ると、嗚咽をもらして泣くアヤメの肩を支えるように、清次郎がアヤメを立たせてやっていた。 「ツバキさんは大丈夫ですよ!」  直久は、アヤメに駆け寄りながら清次郎に伝えたつもりだったが、反応がない。やはり彼には直久の声も姿も意味を成さないらしい。しかし、アヤメは直久の声に顔を上げる。 「……直久さん?」  アヤメがそう声を上げたのと、清次郎が驚いたように目を見開いたのが同時だった。 「……ツバキ!」 (え!?)  
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